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【医師監修】夜勤で眠れない…その不眠、交代勤務睡眠障害かも?看護師・シフト勤務者が今日からできる「熟睡」マニュアル

「夜勤明け、体は鉛のように重いのに、布団に入ると目が冴えて全く眠れない…」
「休日に寝だめしても疲れが取れず、常に頭がボーッとしている」
「最近、些細なことでイライラしたり、急に涙が出たり情緒不安定になっている気がする」

もしあなたがこのような症状に悩まされているなら、それは単なる「疲れ」や「気合い不足」ではありません。夜勤やシフト勤務によって体内時計が乱れ、社会生活や心身の健康に支障をきたす「交代勤務睡眠障害(Shift Work Disorder: SWD)」という、医学的なケアが必要な状態である可能性が高いのです。

夜勤による不眠は、放置すればうつ病や生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、仕事中の重大な医療事故や労働災害にもつながりかねません。しかし、安心してください。体内時計のズレは、光のコントロールや適切な睡眠スケジュールの管理といった「技術」によって、驚くほど改善することができます。

この記事では、自身も長年の夜勤経験を持つ元救急病棟看護師の筆者が、日本睡眠学会専門医・高橋健太郎医師の監修のもと、薬に頼らず今日から実践できる具体的な「熟睡テクニック」を徹底解説します。

この記事でわかること

  • あなたの「眠れなさ」が病気かどうかわかるセルフチェックと医学的背景
  • サングラスや「アンカー睡眠」を活用した、夜勤明け・休日の具体的な快眠戦略
  • 睡眠薬や受診に対する正しい判断基準と、知っておくべき労災の可能性

「夜勤だから仕方ない」と諦める前に、まずはこの記事にある対策を一つでも試してみてください。あなたの睡眠と人生の質を取り戻すためのヒントが、必ず見つかるはずです。


目次

「疲れているのに眠れない」はなぜ起きる?夜勤特有の不眠原因とセルフチェック

このセクションでは、なぜ夜勤をすると「眠りたいのに眠れない」という矛盾した状態に陥るのか、そのメカニズムを医学的な視点から紐解いていきます。まずは、あなたの現在の状態が「単なる夜更かし」レベルなのか、それとも治療が必要な「障害」レベルなのかを確認していきましょう。

これって「交代勤務睡眠障害(SWD)」?症状チェックリスト

交代勤務睡眠障害(SWD)とは、勤務スケジュールが体内時計(概日リズム)と一致しないことによって引き起こされる睡眠障害のことです。全人口の数%、夜勤従事者の10〜40%がこの障害を抱えていると言われています。

以下のチェックリストで、ご自身の状態を確認してみてください。

▼【セルフチェック】交代勤務睡眠障害(SWD)の可能性
症状 チェック
夜勤明けや勤務中に、我慢できないほどの強い眠気(過度の眠気)がある
帰宅して寝ようとしても寝つきが悪く、眠ってもすぐに目が覚めてしまう(不眠)
睡眠不足のせいで、疲労感、集中力低下、イライラが続いている
食欲不振や胃腸の不調(便秘・下痢など)がある
これらの症状が1ヶ月以上続いており、勤務スケジュールが原因だと思われる

※チェックが複数当てはまる場合、SWDの疑いがあります。ただし、確定診断には専門医による診察が必要です。

多くの看護師やシフト勤務者は、「みんな辛いんだから」と我慢しがちです。しかし、SWDは本人の努力不足ではなく、生物学的なリズムの不一致による「身体的な反応」です。まずは「自分はSWDかもしれない」と認識することが、対策の第一歩となります。

高橋 健太郎 医師(睡眠クリニック院長 / 日本睡眠学会専門医)のコメント

「『夜勤だから眠れないのは当たり前』と放置するのが最も危険です。睡眠不足が慢性化すると、脳の機能は泥酔状態と同じレベルまで低下します。これは医療ミスなどの事故に直結するだけでなく、長期的にはご自身の心身を蝕む原因となります。SWDは適切な介入でコントロール可能な『疾患』ですので、我慢せずに現状を客観視することが大切です。」

夜勤明けの「過覚醒」と体内時計(サーカディアンリズム)のズレ

「夜勤明け、クタクタのはずなのに、妙にテンションが高くて眠れない」
この現象には、「過覚醒」という名前がついています。

人間には本来、朝起きて夜眠るという約24時間周期の「概日リズム(サーカディアンリズム)」が備わっています。このリズムを調整しているのが、以下の2つのホルモンです。

  • メラトニン(睡眠ホルモン): 夜になると分泌され、脈拍や体温を下げて自然な眠りを誘う。光を浴びると分泌が止まる。
  • コルチゾール(覚醒ホルモン): 明け方から分泌が増え、血糖値や血圧を上げて体を活動モードにする。ストレスに対抗する働きもある。

夜勤中、私たちは本来眠るべき時間に無理やり起きて活動しています。これに対抗するため、体は興奮物質であるアドレナリンや、覚醒ホルモンのコルチゾールを大量に分泌して、「戦うモード」を維持しようとします。

夜勤が明けて帰宅する頃、外は明るく太陽が出ています。この強い光を浴びることで、体は「朝だ!活動開始だ!」と勘違いし、コルチゾールをさらに分泌させ、一方でメラトニンの分泌を完全にストップさせてしまいます。その結果、脳は「昼間」だと認識して覚醒しているのに、体は「徹夜明け」で疲労困憊という、アクセルとブレーキを同時に踏んだような状態に陥ります。これが「過覚醒」による不眠の正体です。

放置すると怖い…うつ病や生活習慣病との関連性

体内時計の乱れは、単に「眠い」だけの問題では済みません。ホルモンバランスの崩れは全身に影響を及ぼします。

  • うつ病リスクの上昇: 睡眠不足は感情調整機能を低下させます。SWDの人はそうでない人に比べ、うつ病のリスクが高いことが複数の研究で示されています。
  • 生活習慣病・肥満: 睡眠不足は食欲を増進させるホルモン(グレリン)を増やし、抑制するホルモン(レプチン)を減らします。また、夜勤者は糖尿病や高血圧、脂質異常症のリスクが有意に高いことがわかっています。
  • がんリスク: 2007年、WHOの外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、「概日リズムを乱す交代勤務」を「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(Group 2A)」と分類しました。特に乳がんや前立腺がんとの関連が指摘されています。

このように、夜勤による睡眠問題は、将来の健康寿命に直結する重大なテーマなのです。


【夜勤入り〜勤務中】眠気をコントロールし、明けの快眠につなげる準備

ここからは具体的な対策に入りましょう。夜勤明けにぐっすり眠れるかどうかは、実は「夜勤入り前」と「勤務中の過ごし方」ですでに勝負が決まっています。ここでは、勤務中のパフォーマンスを維持しつつ、帰宅後の入眠をスムーズにするための「布石」を打つ方法を解説します。

夜勤前の「寝だめ」は効果なし?正しい仮眠(アンカー睡眠)のとり方

「今夜は夜勤だから、昼までたっぷり寝ておこう」
いわゆる「寝だめ」ですが、医学的には「睡眠は貯金できない」というのが定説です。むしろ、普段より遅い時間まで寝ていることで、その夜の就寝時間が遅くなり、リズムが後ろにズレてしまう(位相後退)リスクがあります。

夜勤入りの日に推奨されるのは、以下の2段階の睡眠戦略です。

  1. 朝は普段通りに起きる: 一度朝日を浴びて体内時計をリセットします。
  2. 出勤前に90分〜120分の「予防的仮眠」をとる: 夕方から出勤直前の間に、まとまった仮眠をとります。これを取ることで、夜勤中の睡眠圧(眠気)を大幅に軽減できます。

この出勤前の仮眠は、夜勤明けの睡眠不足を補うための重要なエネルギー源となります。

勤務中の仮眠は「15分〜20分」が鉄則!起きられないを防ぐコツ

夜勤休憩中の仮眠は、長ければ良いというものではありません。深い睡眠(ノンレム睡眠のステージ3以上)に入ってしまうと、起きた後に強い倦怠感が残る「睡眠慣性」が生じ、業務に戻るのが困難になります。

最適な仮眠時間は「15分〜20分」です。

この短時間であれば、脳の疲れは取れますが、深い睡眠には入らないため、スッキリと目覚めることができます。もし仮眠室の環境が許すなら、横になってリラックスするだけでも効果があります。

【実践!仮眠からスッキリ起きるテクニック】

  • 仮眠直前にカフェインを摂る(カフェインナップ): カフェインの効果が出るまで約20〜30分かかります。寝る前にコーヒーを飲んでおくと、ちょうど起きる頃に覚醒作用が働き、目覚めが良くなります。
  • アラーム活用: スマホのアラームは必須です。イヤホンを使うなどして確実に起きられるようにしましょう。
  • 起きた直後のストレッチ・光: 起きたらすぐに体を動かし、可能なら明るい光を見ることで脳を覚醒モードに戻します。

カフェインは「退勤5時間前」まで!コーヒーとエナドリの正しい飲み分け

眠気覚ましの強い味方であるカフェインですが、摂取タイミングを間違えると、最大の敵である「明けの不眠」を引き起こします。

カフェインの血中濃度が半減するには、個人差はありますが約4〜6時間かかると言われています。つまり、朝9時に帰宅して寝たい場合、逆算して深夜3時〜4時以降はカフェインを断つ必要があります。

【筆者(元看護師)の失敗談】

新人時代、夜勤終了間際の朝6時頃、申し送りの眠気覚ましにとエナジードリンクを1本飲んでいました。その結果、頭は冴えて仕事は捗るものの、帰宅後の午前10時に布団に入っても心臓がドキドキして全く眠れず…。結局一睡もできないまま夕方を迎え、翌日の日勤でフラフラになるという悪循環を繰り返していました。カフェインの残留効果を甘く見てはいけません。

【推奨するカフェインスケジュール】

時間帯 アクション
出勤〜深夜0時 コーヒーやお茶を適度に摂取し、覚醒レベルを維持。
深夜2時〜3時頃 眠気のピーク。ここでの摂取が最後(仮眠前のカフェインナップ推奨)。
深夜4時以降 ノンカフェインに切り替え。水、麦茶、ハーブティーなどで水分補給。

【夜勤明け】帰宅モードへの切り替えが勝負!「光」を遮断して眠気スイッチを入れる方法

夜勤明け、病院や職場を出た瞬間に浴びる「朝日」。これが不眠の最大のトリガーです。ペルソナであるあなたが最も知りたいであろう、「家に帰ってから寝るまで」の具体的かつ詳細なアクションプランを提示します。

高橋 健太郎 医師(睡眠クリニック院長 / 日本睡眠学会専門医)のコメント

「人間の体内時計にとって、光は『最強の薬』であり『毒』でもあります。夜勤明けの朝日は、本来なら覚醒させるためのシグナル。これを無防備に浴びてしまうことは、寝る直前に覚醒剤を飲むようなものです。帰宅中は徹底的に光を避けること。これが質の高い睡眠への最短ルートです。」

退勤時は「サングラス」が必須!朝日で脳を覚醒させない裏技

退勤して外に出るとき、曇りの日であっても紫外線や青色光(ブルーライト)は降り注いでいます。これらが網膜にある視細胞(ipRGC)を刺激すると、脳はメラトニンの分泌を即座に停止させます。

これを防ぐために、退勤時は必ず「サングラス」を着用してください。

  • 選び方: ファッション用ではなく、顔の側面にフィットして隙間から光が入らないタイプが理想です(スポーツ用や花粉症対策用メガネのオーバーサングラスなど)。
  • レンズの色: ブルーライトをカットする効果が高い、濃い茶色や琥珀色のレンズが推奨されます。
  • 着用タイミング: 建物の外に出る前から着用し、自宅の玄関に入るまで外さないでください。
  • 帽子とマスク: つばの広い帽子やマスクも併用し、物理的に光を遮断します。

「恥ずかしい」と思うかもしれませんが、これも仕事の一環と考えましょう。筆者の周りのベテラン看護師は、皆この「怪しい人スタイル」で帰宅していました。

帰宅後のスマホはNG?ブルーライトとメラトニンの関係

サングラスで光を避けて帰宅しても、家の中でスマホを見てしまっては台無しです。スマホやPCから発せられるブルーライトは、朝日の波長に近く、脳を強力に覚醒させます。

帰宅後はスマホを「おやすみモード」や「ナイトシフトモード」に設定し、画面の輝度を最低まで下げましょう。できれば、寝室にはスマホを持ち込まないのがベストです。SNSのチェックや連絡の返信は、起きてからでも遅くありません。

お風呂は「ぬるめ」で短めに。深部体温を下げて入眠を誘う入浴法

人は深部体温(体の中心の温度)が急激に下がるときに強い眠気を感じます。この仕組みを利用するために入浴は有効ですが、熱すぎるお湯は交感神経を刺激して逆効果になります。

【夜勤明けの入浴ルール】

  • 温度: 38〜40℃のぬるま湯。
  • 時間: 10分〜15分程度。長風呂は疲労感を増すので避ける。
  • タイミング: 就寝の30分〜1時間前。お風呂から上がって体温が放熱され、冷めていくタイミングで布団に入ります。

もし疲れて入浴する気力がない場合は、シャワーだけでも構いませんが、首の後ろに少し熱めのシャワーを当てると自律神経が整いやすくなります。

食事は消化の良いものを少量だけ。満腹状態で寝てはいけない理由

夜勤明けは「自分へのご褒美」として、ガッツリしたラーメンや焼肉を食べたくなるかもしれません。しかし、満腹状態で眠ると、消化活動のために胃腸が働き続け、睡眠の質が著しく低下します。また、逆流性食道炎の原因にもなります。

帰宅後の食事は、以下を心がけてください。

  • 内容: おかゆ、うどん、雑炊、スープ、ヨーグルトなど消化の良いもの。
  • 量: 腹6〜7分目にとどめる。
  • アルコール: 寝酒は絶対にNGです(後述)。
▼図解:夜勤明けの理想的な帰宅〜就寝タイムスケジュール
時刻 アクション ポイント
09:00 退勤 サングラス・帽子着用。直射日光を避けて速やかに帰宅。
09:30 帰宅 部屋のカーテン(遮光1級)を閉める。間接照明のみにする。スマホは見ない。
09:45 食事・入浴 消化の良い軽食。ぬるめのお湯でリラックス。
10:30 就寝準備 耳栓・アイマスク装着。エアコンで室温調整。
10:45 入眠 眠れなくても焦らず、横になって目を閉じるだけでOK。

【休日・日勤】体内時計をリセットする「アンカー睡眠」と生活リズムの整え方

シフト勤務者が最も苦労するのは、不規則なシフトの中でいかにリズムを保つかです。ここでは、日勤や休日が混在する中で、最小限の負担でリカバリーするための戦略を紹介します。

魔法のテクニック「アンカー睡眠」とは?4時間を固定してリズムを守る

夜勤、日勤、準夜勤…と勤務時間がバラバラでも、「毎日必ず寝ている共通の時間帯(アンカータイム)」を作ることで、体内時計の大崩れを防ぐことができます。これを「アンカー睡眠(Anchor Sleep)」と呼びます。

例えば、「午前3時〜午前7時」の4時間をアンカー(錨)として設定します。

  • 日勤・休日の日: 23:00〜07:00(8時間睡眠) → アンカータイム(03:00〜07:00)を含んでいる。
  • 夜勤明けの日: 帰宅後に仮眠をとっても、夜は早めに寝る、または翌朝まで寝続けるなどして、翌朝の03:00〜07:00には寝ている状態を目指す。
  • 夜勤入りの日: 前日の夜は通常通り寝て、07:00以降に起きる。

※ただし、夜勤中(深夜勤務)はこのアンカータイムに起きていなければなりません。これがシフト勤務の難しいところですが、「夜勤の日以外」はこの4時間を死守することで、リズムの基準点(アンカー)を体が覚え、復帰しやすくなります。アンカー睡眠を維持できない夜勤の日は、前述の「分割睡眠(仮眠)」で補います。

休日の「爆睡」は逆効果?社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)を防ぐ起床時間

休日に昼過ぎまで寝てしまうと、体内時計が夜型にシフトし、翌週の朝起きるのが辛くなります。これを「社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)」と呼びます。

休日の起床時間は、平日の起床時間+2時間以内に収めるのが鉄則です。
(例:普段7時起きなら、休日も遅くとも9時までには起きる)

もし睡眠時間が足りない場合は、昼過ぎまで布団の中にいるのではなく、一度起きて光を浴び、昼食後に「15時までの間に20分〜90分の昼寝」をして補いましょう。

日光を浴びるタイミングを変えて、体内時計を前倒し・後ろ倒しする技術

体内時計は、光を浴びるタイミングによって「早める」ことも「遅らせる」ことも可能です。

高橋 健太郎 医師(睡眠クリニック院長 / 日本睡眠学会専門医)のコメント

「シフト変更時、この光の性質を利用するとリズム移行がスムーズになります。
【日勤→夜勤へ移行したい時】
夜更かしに対応するため、リズムを後ろにズレさせたいですよね。その場合は『夕方〜夜に明るい光』を浴び、逆に『朝の光』を避けます。
【夜勤→日勤へ戻したい時】
リズムを前に戻す必要があります。この場合は『朝起きてすぐに太陽の光』をたっぷりと浴び、夜は早めに暗くします。この調整を行うだけで、休み明けの身体の重さが劇的に変わります。」


睡眠薬は怖い?病院に行くべき目安と治療の実際

セルフケアだけではどうしても眠れない場合、医療機関を受診することも重要な選択肢です。「睡眠薬は癖になるから怖い」というイメージがあるかもしれませんが、最新の医療事情は変わってきています。

高橋 健太郎 医師(睡眠クリニック院長 / 日本睡眠学会専門医)のコメント

「多くの方が『睡眠薬=依存症』という古いイメージをお持ちですが、現在は依存性の極めて低い薬も登場しています。また、薬はずっと飲み続けるものではなく、リズムが整うまでの『補助輪』として一時的に使うものです。自己判断で市販薬を乱用する方がよほどリスクが高い場合もあります。」

市販の睡眠改善薬と処方薬の違い・使い分け

ドラッグストアで買える「睡眠改善薬(ドリエルなど)」と、病院で処方される「睡眠薬」は、実は全く異なるものです。

種類 主な成分・作用 適したケース
市販の睡眠改善薬 抗ヒスタミン成分(アレルギー薬の副作用である眠気を利用) 「明日だけどうしても寝たい」など、一時的な不眠。長期連用は効かなくなるためNG。
医師の処方薬 オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、ベンゾジアゼピン系など多様 慢性的な不眠。医師が症状に合わせて種類や量を調整する。

特に最近主流になりつつある「オレキシン受容体拮抗薬」は、脳の覚醒スイッチをオフにする仕組みで、従来の薬に比べて依存性が低く、自然な眠りに近いとされています。また、「メラトニン受容体作動薬(ロゼレムなど)」は、体内時計のリズムを整える作用があり、交代勤務睡眠障害の治療によく用いられます。

受診するなら何科?睡眠専門外来で受けられる治療(薬物療法・光療法)

不眠の相談は、内科やかかりつけ医でも可能ですが、交代勤務特有の悩みであれば「睡眠外来」「精神科」「心療内科」への受診をおすすめします。特に「日本睡眠学会専門医」が在籍するクリニックが理想的です。

専門外来では、以下のような治療が行われます。

  • 生活指導: 睡眠日誌をつけながら、個別の生活パターンに合わせた指導。
  • 薬物療法: 症状に応じた睡眠薬の処方。
  • 高照度光療法: 専用の機器を使って、計算されたタイミングで強い光(2,500ルクス以上)を浴び、体内時計を強制的にリセットする治療。

こんな症状が出たら赤信号!すぐに医師に相談すべき危険サイン

以下の症状がある場合は、セルフケアの限界を超えています。早急に受診してください。

  • 眠れないことへの不安で、夕方になると動悸がする。
  • 仕事中に居眠りをしてしまい、ヒヤリハットや事故を起こしかけた。
  • 「消えてしまいたい」など、希死念慮がある。
  • いびきが激しく、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された(睡眠時無呼吸症候群の合併)。

夜勤の不眠は「労災」になる?知っておきたい労働者の権利

「この不眠は仕事のせいなのだから、何か補償を受けられないのか?」
将来への不安から、そう考える方もいるでしょう。ここでは、労働者として知っておくべき知識を整理します。

睡眠障害自体での労災認定は難しいが、関連疾患は対象になる可能性

残念ながら、現状では「不眠症」単独での労災認定はハードルが高いのが実情です。しかし、長時間労働や過重なシフトによって発症した「うつ病などの精神疾患」や、「脳・心臓疾患(脳卒中、心筋梗塞など)」については、労災認定の基準が明確に定められています。

【認定基準のポイント】
発症前1ヶ月におおむね100時間超、または発症前2〜6ヶ月に月平均80時間超の時間外労働(残業)があった場合などは、業務との関連性が強いと判断されます。夜勤などの交代勤務も「負荷要因」として考慮されます。

参考:脳・心臓疾患の認定基準(厚生労働省)

会社に相談できること:産業医面談やシフト調整の申し出

労災申請までいかなくても、会社(病院・施設)には「安全配慮義務」があります。体調不良が続く場合は、以下の行動を起こしましょう。

  • 産業医との面談を希望する: 産業医は中立的な立場で医学的な意見を出してくれます。「夜勤の回数を減らす」「一時的に日勤のみにする」といった就業制限の意見書を出してくれることもあります。
  • 診断書を提出する: 主治医から「交代勤務睡眠障害により、当面の間夜勤免除を要する」といった診断書をもらい、上司に提出・相談します。

自分の身を守るために記録しておきたい「勤務実態」と「体調ログ」

いざという時、自分の身を守るのは「記録」です。以下のものを残しておきましょう。

  • 実際の勤務時間: シフト表だけでなく、実際のタイムカードや残業時間のメモ。
  • 睡眠日誌: 何時に寝て何時に起きたか、中途覚醒の有無など。
  • 体調の変化: めまい、動悸、吐き気などの具体的な症状と発生日時。

よくある質問に元夜勤ナースと専門医が回答

最後に、夜勤者が抱えがちな細かな疑問について、筆者の経験と医師の見解を交えてQ&A形式でお答えします。

Q. お酒を飲んで寝るのはやっぱりダメですか?

A. 残念ながら、寝酒は睡眠の質を最悪にします。

高橋 健太郎 医師(睡眠クリニック院長 / 日本睡眠学会専門医)のコメント

「アルコールは一時的に眠気を誘いますが、麻酔のようなもので、脳を無理やりシャットダウンしているだけです。時間が経つとアルコールが分解される過程で交感神経が刺激され(リバウンド効果)、夜中に目が覚めたり、浅い睡眠しかとれなくなったりします。また、利尿作用でトイレに起きる回数も増えます。夜勤明けのビールは美味しいですが、睡眠のためには『寝る4時間前まで』にしておくのが賢明です。」

Q. 耳栓やアイマスクが苦手です。他にできる環境調整は?

A. 遮光カーテンとホワイトノイズを活用しましょう。

体に何かを装着するのが不快な場合、部屋の環境を変えます。

  • 完全遮光カーテン(1級遮光): 部屋を真っ暗にすることが最優先です。隙間からの光は、カーテンボックスや洗濯ばさみを使って塞ぎます。
  • ホワイトノイズ: 生活音が気になる場合、無音にするよりも、扇風機の音や空気清浄機の音、あるいは専用の「ホワイトノイズマシン」やアプリで「ザーッ」という一定の環境音を流しておくと、突発的な物音(ドアの開閉音や話し声)がかき消され、気になりにくくなります(サウンドマスキング効果)。

Q. 年齢とともに夜勤が辛くなってきました。これは限界のサイン?

A. 加齢による適応力の低下は自然なことです。

年齢を重ねると、体内時計の調整機能や体力は自然と低下し、睡眠も浅くなります。これは個人の努力ではどうにもならない生理的な変化です。「若い頃は平気だったのに」と自分を責める必要はありません。辛さが限界に達する前に、日勤常勤への異動や、パート勤務への切り替えなど、働き方の見直しを検討する時期かもしれません。

Q. 家族の生活音で起きてしまいます。どう理解してもらえばいい?

A. 具体的なルール作りと、感謝の言葉が鍵です。

【筆者(元看護師)の体験談】

私も以前、夫のテレビの音やドアの開閉音で目が覚めてしまい、喧嘩になることがありました。そこで、感情的に怒るのではなく、「夜勤明けの私の脳は、交通事故を起こしかねないほど疲れているの。あなたの協力が必要」と真剣に伝えました。
その上で、「このドアノブには『睡眠中』の札をかけるから、その間だけは静かにしてほしい」「その代わり、起きたら美味しい夕飯を作るね」と具体的なルールとメリットを提示しました。家族も「いつ静かにすればいいか」が明確になり、協力してくれるようになりました。


まとめ:夜勤でも質の高い睡眠はとれる!自分に合ったリズムを見つけよう

夜勤による不眠は、気合いや根性で解決できるものではありません。光の調整、睡眠のタイミング、嗜好品の管理といった「科学的なアプローチ」が必要です。

今日からできる対策を、最後にもう一度チェックリストで確認しましょう。

▼今日から始める夜勤睡眠対策・最終チェックリスト
チェック アクション 期待できる効果
退勤時にサングラスをかける 朝日による覚醒を防ぐ
帰宅後はスマホを見ない ブルーライトをカットしメラトニンを守る
お風呂はぬるめでサッと済ます 深部体温を下げて入眠しやすくする
寝室を遮光カーテンで真っ暗にする 睡眠の質を高める
勤務中の仮眠は15〜20分にとどめる 明け方の過剰な疲労を防ぐ
休日は「アンカー睡眠(固定4時間)」を守る 体内時計のリズムを維持する

高橋 健太郎 医師(睡眠クリニック院長 / 日本睡眠学会専門医)からのエール

「夜勤で働く皆さんは、社会の安全や健康を支える非常に尊い仕事をされています。だからこそ、ご自身の健康を犠牲にしないでください。睡眠は『削るもの』ではなく『明日のパフォーマンスを作る投資』です。今回ご紹介した方法で、少しでも良質な睡眠を手に入れ、笑顔で働き続けられることを願っています。どうしても辛い時は、いつでも私たち専門医を頼ってください。」

あなたの眠りが少しでも深くなり、心身ともに健やかな日々が送れることを、元看護師として心から応援しています。
まずは次回の夜勤明け、帰りのバッグに「サングラス」を入れるところから始めてみてください。


参考リンク・出典
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